ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

26 不思議な出会いでした

 空腹や精神的衰弱によって、ぼんやりとして頭が上手く機能しない中で、クロエはかつての継母の発言を思い出す。

 ――干渉は厳禁よ。好きなことをやらせなさい。夜遊びも、男遊びも、どうぞご自由に。

 それは天啓のようなものだった。

 そうだ、自分はもう自由なのだ。好きに過ごしていいし、どこへ行ってもいい。
 もう以前みたいに継母に移動を止められたりされないはず。
 そう考えると、気持ちが少し軽くなった気がした。

 彼女は今、魔法の特訓に行き詰まっていた。屋敷の図書室にある魔導書が読めないからだ。

(そうだわ……王立図書館へ行きましょう)

 あそこは国中の書物が揃えられている。きっと、侯爵家よりも多くの魔導書があるだろう。

 早速、屋敷を出発する。念のため裏口からこっそりと脱出した。
 途中で彼女と鉢合わせした者もいたが、案の定特に咎め立てられたりされなかった。彼らの世界には彼女はもういないのだ。

 馬車は使えなかったので、徒歩で向かった。幸いにも、パリステラ侯爵家から王立図書館はそう遠くなく、徒歩でも十分行ける距離だった。
 さすがに小一時間ほどは歩いて、弱った彼女の足腰には厳しかった。
 それでも、魔法を使えるようになりたいという意思で、なんとか辿り着いたのだ。


(うわぁ……! 広い! お屋敷の図書室とは比べ物にならないくらいの本の山だわ!)

 王立図書館に到着すると、早速魔導書の棚を探して、貪るように読み耽った。久し振りの文字の羅列に、心が踊った。

 彼女のぞっとするくらいの痩せこけた貧相な姿に、司書たちははじめは困惑した。
 だが、王立図書館は学びたい者は拒まずを標榜しており、特に追い出すような真似はしなかった。もっとも、おぞましい者を見ないようにはしていたが。


 こうして、クロエの新しい習慣がはじまったのだった。

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