ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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つくねんと無味乾燥に屋敷にいても仕方がないので、クロエは毎日のように図書館へと通って魔導書を読んでいた。
時には、息抜きにと流行りの恋愛説を読んだり、背伸びをして政治や経済の本など少し難しいも目を通して、想像以上に充実した時間を過ごしていた。
ここでも彼女と会話を試みる者はいない。痩せぎすの憐れな姿に眉をひそめる者もいる。
しかし、少なくとも本とは対話ができた。
彼女はまるで友達とお喋りするかのように、夢中で読み耽っていた。
毎日、図書館に通っていると、自然と他の常連の顔ぶれも覚えてくる。やはり学者と思しき人々が多かったが、騎士団の制服の者、聖職者、令嬢……様々な人物たちが出入りしていた。
そんな多くの人々の中で、不思議と目を惹き付けられる人物がいた。
彼は――クロエと同じか少し年上くらいの容貌で、流れ星みたいな銀色の髪と、夜空を薄めたようなタンザナイト色の瞳が印象的な、不思議な魅力を醸し出している少年だった。
クロエが図書館へ赴くと、彼はいつも既に閲覧室に座っていて、とても真剣に書物を読んでいた。彼のそんな真面目な姿が、彼女の励みにもなっていた。
(今日も頑張っているわね。私も負けないように魔法の勉強をしっかりやらなくちゃ)
いつしか彼は、彼女の意欲を高める起爆剤のような存在になっていた。
一生懸命に学問の取り組んでいる彼を眺めていると、悲しみで押し潰れそうになっている心も少しは膨らんで、やる気に満ち満ちてくるのだ。