ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
それは、突然の出来事だった。
彼女がいつも見ていた「彼」から、話しかけられたのだ。
「面白い本を読んでいるな」彼はクロエに向かってにこりと微笑む。「俺も好きなんだ、その物語」
「っ……!?」
出し抜けにクロエに向かって放たれた彼の言葉に、目を見張った。
言葉が、出ない。
(私も……このお話が大好きなの!)
彼女は、もうずっと声を出していなかったので、すぐには答えられなかった。ぱくぱくと魚みたいに口だけを間抜けに動かす。
(どうしましょう、言葉が出ないわ……)
ただでさえ痩せ細って見た目が良くないのに、こんな間抜けな姿では気味悪く映るだろうか……と、不安が過ってますます声を出しにくくなって、焦った。
すると彼は少し戸惑った顔をして、
「ごめん、突然声をかけたから驚いたよな。いつも君の顔を見かけていたから、すっかり友人になった気分だった」
クロエは更に大きく目を見開く。
一瞬、呼吸が止まった。
ずっと忘れていた、嬉しいという感情が湧き上がってきて、にわかに鼓動が早くなる。