ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「わっ……」少ししてやっと声が出た。「わ、私も……あなたと同じことを考えていたの。いつも勉強を頑張っている姿を見ていて、自分も負けないように頑張ろう、って……」
彼は少し目を見張って、それから相好を崩した。
「それは嬉しいな。実を言うと、俺も集中力が切れそうになったときに、密かに君を見ていたんだ。あの子はまだ頑張っているから、自分も頑張ってもう少し先まで読み進めよう、ってね」
「っつ……!」
心臓が爆ぜそうだった。
彼は……自分のことを、見てくれていたのだ。
屋敷では誰からも相手にされていなくて、ゴーストだって忌み嫌われて。
あまりにも人と関わらな過ぎて、本当に自分の存在は証明できるのだろうかと苦悶していて。開けない夜みたいな延々と続く孤独が恐ろしくて。
(でも、私は……見られていたのね……彼に……!)
感激のあまり、思わず一筋の涙が頬を伝った。
「お、おい! どうした? 大丈夫か?」と、彼は矢庭に慌てふためく。自分のせいで女の子を泣かせてしまったと、ショックを受けている様子だった。
「いいえ」クロエは首を横に振って「ちょっと埃が目に入ったみたい。あなたのせいじゃないわ。びっくりさせてごめんなさい」
「な、ならいいんだが……」と、彼はポケットからハンカチを取り出す。そして、おもむろに彼女の濡れた頬を拭った。
「!?」
クロエはどきりと心臓が跳ねて、硬直する。
こんなに人から優しくされたのはいつぶりだろうか。嬉しさと恥ずかしさが綯い交ぜになって、顔を上気させた。