ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
彼の彫刻のように整った顔がとても近くて、青紫の瞳に吸い込まれそうに――、
(あら……?)
彼女はふと違和感を覚えた。じっと彼の双眸を見つめる。
「ん? どうした?」
涙を拭きおわって、彼は彼女から少し離れて首を傾げた。
「その瞳……」とクロエが呟くように言う。
彼は少し眉を上げて、
「あぁ、よく気付いたな。俺は生まれたときから左側の目が少し違うんだ」と、肩をすくめた。
彼の瞳は美しいタンザナイトの色をしているが、近くで見ると左目のほうは若干色素が薄くて、右目に比べてきらりと光彩を帯びているように見えた。それは、夜空に星を散りばめたみたいに綺麗だった。
そして……この瞳は見たことがある。
クロエが黙り込んでいると、彼は苦笑いをした。
「ちょっと変だろう? ま、これでも気に入ってはいるんだが――」
「違うの」
クロエのはっきりとした声が遮る。そして、じっと彼の双眸を強く見つめた。
「お母様も、あなたと同じ瞳をしていたわ」
彼の瞳は、彼女の母親と同じ輝きを持っていたのだ。