ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(お父様は……やっぱり私たちのことを愛していなかったのね…………)
薄々は気付いていたことだが、実際に口にされると胸を抉られるような鋭い悲しみがクロエを襲ったのだった。覚えず涙が出そうになるが、耐えた。
ロバートは気まずそうに娘をちらりと見やる。彼女は涙目を父親に見せまいと顔を伏せた。
侯爵はおろおろと視線を彷徨わせてから、
「そ……そうだ、コートニー! これからお前のドレスを買いに行こう! 欲しがっていた宝石も買ってあげるぞ! な?」
猫撫で声で大事なほうの娘の機嫌を取った。
するとコートニーはさっきまでとは打って変わって、にわかに顔をぱっと輝かせた。
「本当? お父様、本当?」
「あぁ、本当だとも。お前の好きな物をなんでもお父様が買ってやろう」
「やったわぁっ!」と、彼女はぴょんと兎のように飛び上がって、大好きな父親の腕に絡み付いた。そして、ぐいぐいと太い腕を大きく引っ張る。
「ねぇ、お父様ぁ~。早く行きましょう? あたしのドレスと宝石が売り切れちゃう!」
彼女は異母姉の部屋が欲しいと強請ったことをすっかり忘れたかのように、るんるんと軽い足取りで出口に向かった。
父も継母もクロエのことなんて眼中にないように、可愛い娘へのご機嫌取りで頭の中がいっぱいで、侯爵令嬢に対する無礼を詫びず、別れの挨拶もせずに出て行った。
そのとき……、
ふとクロエとコートニーの目が合った。
「っ……!?」
ほんの一瞬だけだったが、異母妹の可愛らしいおちょぼ口に歪んだ笑みが浮かんだのを、クロエは見逃さなかった。