ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
ふと、視線を感じると、隣に立つ彼がこちらを見ていた。ため息が出るくらいに綺麗な瞳に思わず胸が一つ鳴る。
「どうしたの?」
「いや、君は母君の目を受け継いでいないんだなって」
「そうね……。お母様は私もいつかキラキラになるって言っていたけど……きっと私が自分も~って強請ったから慰めてくれたのね」
「そうか……」と、彼はまた考える素振りを見せた。
クロエもまた思案する。
母親は魔法の強い家系に生まれたと言っていた。魔法が強いと魔力が瞳に宿るのだろうか。それがキラキラの正体? だとすると、目の前の彼も、母のような偉大な魔法使いなのかしら?
「そう言えば、自己紹介がまだだった」と、出し抜けに彼が声を発してクロエも我に返る。
「俺の名前は、ジョ……」彼は一拍だけ押し黙ってから「……ユリウスだ。君は?」
「私は、クロエ・パリ――」
家門を名乗ろうとして口を噤む。卒然と無慈悲な事実が彼女の胸を貫いた。
自分は魔法が使えないパリステラ家の出来損ないなのだ。なのに家門を名乗るなんて、なんとおこがましいのだろう。
「私は……」クロエはちょっと淀んでから言い直す。「クロエ。ただの、クロエよ」
彼はニッと歯を見せて、
「俺も、ただの……ユリウスだ」
こうして、クロエにはユリウスという友人ができたのだった。