ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「それは?」と、彼が不安げな表情で彼女を覗き込んだ。
「……じ、実は、魔道書を読み耽っていると、時間が早くたっちゃって……食事も忘れることが多いの。だから……起床して気がついたらもう夜で……。そのまま就寝する日ばかりなのよ!」と、彼女は捲し立てるように早口で言った。
「…………」
ユリウスは眉間に皺を寄せて黙り込む。彼の不穏な沈黙が、彼女の胸を締め付けた。
こんな、あからさまな嘘が彼に通じるだろうか。親切にしてくれる相手に嘘をつくなんて不誠実ではないだろうか。
ばくばくと心臓が強く打った。
「そうか」
意外にも彼は納得したように頷いた。彼女はほっと胸を撫で下ろす。
「たしかに君は、図書館でも随分集中をして読んでいるようだ。本当はもっと早く声をかけたかったけど、あまりに真剣に読書をしているから、ずっと躊躇していたんだ」
「そ、そう……」
撫で下ろした胸がにわかに痛くなった。嘘をつくという行為はどうも慣れないものだ。
「きっと、家でも寝食を忘れて、ずっと魔導書で勉強しているんだろう?」
「ま、まぁ、そうね」
居たたまれなくなって思わず目を逸らす。罪悪感が押し寄せてきた。
「分かる、分かるよ。俺もつい夢中になって食事を抜いてしまうことがままある」と、彼はうんうんと頷く。
「あるわよね」
彼女も同意するように相槌を打つ。
このまま話が終わると安堵していたら、卒然と彼の顔が険しくなった。
「だが、食事は摂らないと駄目だ」
「うっ……」
彼女の顔が強張る。こっちは食事を摂りたくても、摂れないのだ。
だが、どう誤魔化せば――……。