ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「そこで、だ」
突然、彼がぽんと手を叩いた。彼女は驚いて目を丸くする。
「君が食事を摂り忘れることのないように、明日から君の分も持って来るよ。これからは俺と一緒に食べよう」
「ふぇえぇっ!?」
クロエは目を見張って、素っ頓狂な声を上げる。
信じられなかった。驚きと嬉しさで胸が弾けそうになった。
「じゃ、決まりだな。早速、明日から――」
「い、いいのっ!?」と、彼女は食い付くように彼を見た。
「いいに決まっているだろう? 俺も一人で食べるより話し相手がいたほうが楽しいし。ま、人助けと思って付き合ってくれ」と、彼はにこりと微笑んだ。
「えぇ……ありがとう!」
嬉しくて嬉しくて、また涙が出そうだった。
いや、本当に出たかもしれない。明日も明後日も明々後日も……食事が摂れるなんて、夢のようだ。
「そうだ、好きな食べ物はあるか? あと苦手な食べ物も」
「苦手な食べ物は特にないわ。好きな食べ物は……美味しいもの? 全部、好きよ」と、クロエは瞳を輝かせる。
今の彼女にとっては、どんな食べ物も美味しいものだ。誰かが誰かに食べてもらうために作ったものは、全部。それは、とっても尊いものなのだ。
「なんだよ、全部って。食いしん坊だなぁ」彼はくつくつと笑う。「じゃあ、美味しいものを毎日君に届けよう。クロエ」
「ありがとう、ユリウス」
それから毎日のように、クロエとユリウスは丘の上の鐘塔の下で二人で食事を摂った。
それは彼女にとって、ささやかな幸せで、かけがえのない大切な時間だった。