ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
ユリウスはずっとクロエのことが気になっていた。
痩せぎすの身体とぱさぱさの髪、生地は上等なものを使用しているようだが、擦り切れて薄汚れたドレス。
一見、ぎょっとするような見目だが、彼女の立ち姿は凛としていて、仕草も洗練としていた。
そして毎日一生懸命に勉学に打ち込む様子は、彼も大いに励まされた。彼女を見ていると、不思議と自身も意欲が湧いてくるのだ。
いつしか彼は、彼女が現れるのを毎日楽しみに待っていて、その姿を自然と目で追っていたのだ。
もっと彼女と近付きたいと思っていたが、突然話しかけて不審に思われないかと、躊躇もしていた。
彼は、その身位から令嬢たちに囲まれることはあっても、自ら令嬢に言い寄る度胸は持ち合わせていなかった。
そんな悶々と日々を過ぎ去っていたあるとき、クロエがある本を読んでいるのが目に付いた。それは、彼が子供の頃によく乳母にねだって、何度も読んでもらった童話だった。
彼は嬉しくなった。自分が好きな物語を彼女も読んでいる。なんだか尊い思い出を共有しているみたいで、胸が一杯になったのだ。
その高揚した気持ちに包まれて、勢い余って彼女に話しかけてしまった。
でも、後悔はしていない。
だって、こうやって友人になれたのだから。