ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「悪いが、彼女について調べてくれないか。気になることがあるんだ」
「たしかに、貴族令嬢の雰囲気を醸し出しているのに、あの身なりは不自然ですね」
「それもあるが」とユリウス。「彼女の母親の右目は俺と同じらしい」
リチャードは目を剥いた。
「まさか……!」
ユリウスは深く頷く。
「彼女の母親はアストラ家の末裔なのだろう。かの一族は大陸中に散り散りになったと言われているから、然もありなんだな」
「承知しました、殿下」
「彼女は家門を名乗りかけて途中で止めた。たしか……『パ』と言いかけていたな。思い当たるか?」
「パ……でしたら、パリステラ侯爵家でしょうか。代々、高名な魔導士を排出している家系ですね」
「そうか」
ユリウスは、クロエがよく魔導書を読んでいる様子を思い出した。
アストラの一族の末裔は、自分のように特殊な目を持つ。
彼女の母親は間違いないようだが、彼女自身はその瞳を持たない。ということは、まだ魔法が覚醒していないのだろう。
そしてリチャードの言う通り、パリステラ侯爵家が魔法の名門となると……。
(そういうことか……)
彼は合点して、軽く舌打ちをする。彼女のあまりに貧相な姿は、魔法が使えないことと関わっているのだろう。
「そのパリステラ侯爵家を調べてくれ。特に彼女の母親と……現在の彼女の待遇を」
「御意」
ユリウスは、クロエが嘘をついていることを見抜いていた。本当は、食事をまともに与えられていないのだろう。
だから自分と一緒に昼食と摂ることを提案して、答えも聞かないうちに半ば強制的に決めてしまった。
そうでもしないと、彼女がこのまま消えていなくなりそうだったから。
彼女のことを、ただ助けたいと思った。
それは自覚のない淡い恋心だった。