ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
ユリウスとの時間は、宝物が詰まったような幸福そのものだったが、いつか泡みたいに儚く消えてしまうのではないかと、案じている気持ちもあった。
でも、悪いことばかり考えても仕方がない。
ユリウスはたしかに存在していて、自分の大切な友人なのだ。
(彼になにかお礼をしないと……)
あの日以来、クロエは毎日図書館へ出かけては、ユリウスと昼食を摂っていた。
彼はいつもお腹いっぱいに食べさせてくれた。それは空腹はもちろん、彼女の枯れ果てた心まで満たしてくれた。
彼は文字通り命の恩人で、いくら感謝の言葉を重ねても、全然足りないくらいだった。
(……そうだわ! お母様の刺繍箱があったはずだわ)
クロエは早速、離れの物置へと向かった。
それは、父親が死んだ母親の荷物を問答無用で詰め込んだ、古い倉庫だ。
あのときは酷く悲しんだが、今となっては、良かったのかもしれない。
そこには継母と異母妹の、魔の手が伸びていないからだ。
父親は前妻のことは二度と口にしたくないらしく、新しい妻と娘の前で、決して言及しなかったのだ。