ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
物置は木材でできた安普請で、昔は庭師の休憩所として使用していたらしい。建ってからかなり時間がたった古めかしい建物で、ところどころ朽ちていた。
案の定、警備もいないし鍵も掛かっていなくて、彼女は易々と中へ潜り込むことができた。
一歩足を踏み入れると、多くの懐かしい物が目に飛び込んできて、息が止まる。
(お母様……)
母が使っていた鏡台、母が着ていたドレス、母の読んでいた本……ここには思い出がたくさん詰まっていて、じわりと胸が熱くなった。
「……と、いけない! 刺繍箱を探さなきゃ!」
クロエは、ずっと思い出に浸っていたい気持ちを振り払って、目当てのものを探し始めた。
ユリウスにはハンカチをプレゼントするつもりだ。名前入りのハンカチ。これなら使い捨てられるから、いくらあっても大丈夫なはずだ。
「あったわ!」
刺繍箱は、什器の間の奥まった場所にしまわれていた。
彼女は膝を付いて、思い切り手を差し出す。箱は綺麗に隙間に挟まっていて、彼女はうんうんと身体を伸ばしながら、箱を掴もうともがいた。