ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「クロエ! ずっと来ないから心配していたんだ! なにかあったのか!?」
約一週間ぶりにクロエが王立図書館へ向かうと、ユリウスがすぐさま出迎えてくれた。それが、まるで飼い主の帰りを待つ大型犬のように見えて、なんだか微笑ましくて、彼女に少し笑顔が戻る。
久し振りに彼に会えて、ただ嬉しかった。
「心配かけてごめんなさい。ちょっと熱が出ちゃって……」
「熱? もう大丈夫なのか?」
「えぇ、もう平気よ。休んでいたぶん魔法の勉強を頑張らなくちゃ」
クロエが本棚に進もうとすると、
「っ……!」
火事のときに挟まれた左脚がずきりと傷んで、思わず顔をしかめた。
熱や打撲の痛みは引いたものの、左脚だけは未だに治らなかったのだ。
「どうした? 大丈夫?」と、ユリウスが彼女の顔を覗き込む。
「だ……大丈夫よ」
クロエはそのまま歩き出そうとするが、
「っいっ……!」
左脚の痛みは、更に彼女を突き刺した。朝より痛みが増している。
おそらく、まだ治りきっていないのに、少し無理をして図書館まで来たのが原因だろう。
「足を引きずっているじゃないか」と、にわかに彼の顔が険しくなった。
「ちょっと……転んじゃって……」と、彼女はばつの悪い様子で答える。