ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
パリステラ侯爵は新しい妻と娘をとても愛しているようだった。
二人にはなんでも買い与えて、食事も母娘の好みのものを作らせ、屋敷では好きに過ごさせていた。
その様子に家令が「侯爵夫人及び侯爵令嬢としていかがなものか」と諫言すると、侯爵はたちまち気色ばんで「二人は本邸に来たばかりで不安なんだ。早く貴族の生活に慣れるためにも、まずは楽しく過ごすことが大事だ。それに宝石やドレスは侯爵家の人間として、本物を見る目を養ってもらわなければ」と、叱責するだけだった。
そうは言っても、侯爵家としての威厳は最低限は守ってもらわないと、家の品格に関わる。
それは「評判」となって風に吹かれた花弁のように社交界へ飛んで行って、ゆくゆくは自分たちの首を絞めることになるかもしれないのだ。
日に日に増えていく贅を尽くしたドレスや宝石。反比例するように目減りしていく侯爵家の財政。
パリステラ家は国でも有数の名家なので財産は潤沢にあるものの、かつてなかった派手な金遣いに従者たちは動揺を隠せなかった。
しかし、それが当主の意向だったので、どうすることもできなかった。
クロエも彼らから相談を受けたことがあったが、まだ未成年の令嬢に成す術もなく……ただ彼女は当主である父の意向に従うだけで、たまに会う婚約者へささやかな愚痴をこぼすしかなかった。