ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………」
ユリウスは少しのあいだ黙り込んでから、
「きゃっ!」
怪我をした彼女の身体をふわりと抱き抱えた。
「えっ……ユ、ユリウス……!?」
クロエは目を白黒させる。急激に顔が上気して、どくどくと痛いくらいに胸に早鐘が鳴った。
(は……恥ずかしい!)
彼女はこれまで一度も――婚約者からも、こんな風に抱き抱えられたことがなかったので、軽いパニックに陥っていた。
「これから治療院へ行こう」と、ユリウスか彼女の耳元で囁く。微かな風が耳をくすぐって、クロエの顔は更に熱くなった。
「でも……。そ、それに、こんな姿……恥ずかしいわ!」
彼女は、動揺する心を落ち着かせて、やっとの思いで声を上げた。
「君は足を怪我していて、歩くのも苦痛だろう? 大丈夫、すぐに歩けるようになるから」と、彼はにこりと笑うだけだ。
「うっ…………」
彼女はなにも言い返せずに、ただ頷いた。
彼の優しさが、嬉しくて。胸にほんのりと火が灯った。