ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


(軽いな……。軽すぎる)

 ユリウスは心の中で舌打ちをする。
 彼は、側近のリチャードから、クロエとパリステラ侯爵家の調査結果を聞かされていた。
 父親との関係、婚約者、継母と異母妹が来てからの彼女への仕打ち――全てを彼は知ってしまった。

 同時に、胸が張り裂けるような激しい憤りを覚えた。身体中の血が煮えたぎりそうだった。
 継母らの人の所業と思えないような、あまりに残忍な行いは、決して許されるものではなかった。

 クロエを、この地獄の中から救い出したい。……彼女を、幸せにしたい。
 彼はそう強く願っていた。

 しかし、今の彼の立場はジョン・スミス男爵令息。

 外遊を決めた際に、父である皇帝から厳しく言われていたのだ。
 身分を知られてしまうことや、本来の身分を利用して権力を行使をすることが、絶対にないように――と。

 彼が身分を笠に、表立ってパリステラ侯爵家に抗議しようものなら、国家と国家の問題に発展するかもしれない。かと言って、男爵令息が侯爵家に楯突くのも無謀だ。

 少しも身じろぎできない状況に……そんな無力な自身に腹が立った。
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