ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そこで、彼は父帝に手紙を書いた。
一緒になりたい……愛する令嬢がいる、と。
それは、皇家から正式に婚約の申し込みをしたい――という趣旨の手紙だった。
彼は第三皇子とあって、そこまで厳格に婚約者を定めていなかった。
長兄の皇太子には既に嫡男が生まれていたし、第二皇子も国内の高位貴族の令嬢と婚姻を結んだばかりだ。
クロエは外国人ではあるが、侯爵家出身、しかも母親はアストラ家の血を引いている。帝国皇子にとって、申し分のない相手だ。
(もう少しだけ我慢してくれ……クロエ)
第三皇子は、愛おしそうに腕に抱いた侯爵令嬢を見る。
はじめは、少し気になるだけだった。
でも、毎日頑張っている彼女を見ているうちに、もっと知りたいと思って、勇気を出して話しかけて、言葉を交わす度にもっと彼女のことを好きになって。
本当は、すぐにでも彼女を母国へ連れて帰りたい衝動に駆られたが、皇族として生まれた彼は皇子としてきちんと筋を通したい、と……そう考えていた。