ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「よし、これで元通りだ!」
「ありがとう、ユリウス……! 私、なんてお礼をしたらいいか……」
ユリウスはクロエを抱き抱えたまま近くの治療院へ連れて行って、彼女の脚の怪我はすっかり治った。痛みも傷も完全に消えて、彼女はもう走れるくらいに健康だ。
「クロエが元気になってくれたら、それが一番嬉しいよ」と、彼は笑顔を見せる。
「で、でも……治療費も払ってもらったし……」
「いいって、いいって。友人の役に立てることは、俺にとって名誉なことなんだ」
「そんな……」
彼女は感激のあまり少し口を閉ざしてから、
「そうだわ! 私、あなたにプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
クロエは鞄からおもむろに包みを取り出した。ユリウスのイニシャルを心に込めて刺したハンカチだ。
「いつもありがとう、ユリウス。あなたのおかげで……私は頑張れるわ」
「クロエ……」
ユリウスは目を見張る。鼻がつんとして、胸が詰まるようだった。
彼女自身のことで精一杯なはずなのに、自分のために時間を割いて刺繍をしてくれたのが、純粋に嬉しかった。
「ありがとう……! 俺、大事にするよ。死ぬまで、ずっと……。墓場にも持って行くから!」
急激に気持ちが昂揚して、思わずクロエにずいと近付いた。
二人の双眸が重なる。
しばらく、呼吸が止まった。