ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そして事件は起こった。
ある日、クロエが晩餐のためダイニングルームへ足を運ぶと、
「なっ……なぜ、コートニーがそれを…………!?」
クロエは目を剥いた。あまりの驚きように、心臓が痛いくらいに激しく打っていた。
なんと異母妹の胸元には彼女が婚約者から贈られたネックレスが飾られていたのだ。それは去年の彼女の誕生日に贈られたもので、ピンクダイヤがきらりと輝く小さなリボン型の、大切なネックレスだった。
コートニーはにこにこと笑って、
「これ? 可愛いでしょう? あたしにぴったりだと思うの」
「それは私の婚約者が誕生日プレゼントに贈ってくれたものよ。返して!」と、クロエは思わず声を強める。
「えぇ~っ! だって、あたしのほうが似合うんだもの。地味なお顔立ちのお異母姉様には勿体ないわ」
「そういう問題ではなくて、このネックレスは私にとって大切なものなの。人のものを無断で盗ることはいけないことなのよ」
怒ったクロエが凄むとコートニーはみるみる泣き顔になって、
「お父様ぁ~! お異母姉様があたしのことをいじめるの~っ!」
父親に抱き着いた。
さすがにこんな不条理なことは父も咎めるだろうとクロエが考えていると、ロバートは彼女の予想に反して困惑顔で泣いている娘の頭を撫でながら、
「クロエ。お前は姉なのだからもっと妹に優しくしなさい」
なぜかクロエを叱責したのだった。
「お父様! この子は私の部屋へ無断で入室して、あまつさえ私の所有物を窃盗しました! なぜ、被害を受けた私が責められないといけないのですか? まずは犯罪行為を行った者を正すのが先ではないのですか?」
「クロエ! 妹を犯罪者呼ばわりするな!」
「ですが――」
「家族にネックレスを貸すのは普通のことだろう。お前はそんなに狭量な考えを持っていたのか? もっと侯爵令嬢として余裕を持つんだ。――さぁ、妹を泣かせたことを謝りなさい」
「っ………………」
クロエは二の句が継げずに押し黙る。悔しくてスカートをぎゅっと掴みながら唇を噛んだ。全身の震えが止まらず、喉が焼けるようだった。
(暴論だわ……。お父様は……こんなにも愚かな方だったの……!?)