ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
数ヶ月振りに前にした父の書斎の扉は、とても大きく見えた。
クロエは、緊張で扉の前で少しだけ足がすくんだが、深呼吸をして落ち着かせた。凍りかかった手でノックをすると、父が応えた。
「失礼します……」
足を一歩踏み入れて、目を剥いた。心臓がぎゅっと縮こまる。
執務室には、父ロバートと……継母クリス、異母妹コートニーも勢揃いしていたのだ。
「っ……」
思わず息を呑んだ。継母と異母妹の姿を見ると、油の切れた車輪のように肉体がぎこちなく凝り固まった。
怖い……。
二人に対しては、今や、ただ恐怖の念しか残っていなかったのだ。
剣呑な重い沈黙が満ちていた。
「遅いわよ。一体、何時間待たせると思っているの? 旦那様は、あなたみたいにお暇じゃないのよ」
ややあって、継母の険しい声がクロエを刺した。
「もっ……申し訳ありません!」と、反射神経のように彼女は頭を下げる。
「本当に愚図ね。お父様のお手を煩わせないで」とコートニー。
「申し訳……ありません…………」と、更に深く頭を下げた。ぎゅっと目を瞑る。また殴られるのが恐ろしかった。
「もう良い」ロバートが手を振って母娘を制止する。「私から話そう。――クロエ、顔を上げなさい」
「はい……」
クロエはおもむろに顔を上げる。
父親と目が合った。その双眸は酷く無感情で、娘に対する愛情など、少しも宿っていなかった。
ぞくりと背中に悪寒が走った。
眼前の六つの瞳。それらは、一様に彼女の姿を冷たく捉えていた。