ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(見られている……)
ねちっこい汗が毛穴から出た。
妙な高揚感だった。恐怖と悲愴感で胸が苦しいはずなのに、不思議にも興奮を覚えたのだ。
ずっと、自分のことを無視して、いない存在だと……ゴーストだと揶揄していた家族。
それが、今は自分を見つめている。
もう、彼らと対峙することさえ苦しいはずなのに、相手にされて……覚えず嬉しい気持ちが芽生えた。
そんな風に都合よく彼らに弄ばれて、一喜一憂して、泣いて笑って、感情を乱されて…………そんな自身に、激しい嫌悪感を覚えた。
ユリウスは、クロエにとって、たしかに心の支えだった。
だが、生まれてこの方ずっと育ってきた侯爵家の屋敷で、自分の居場所を取り上げられた孤独は……それとは別のところで彼女の精神を蝕んでいたのだ。
長らく屋敷の中で一人ぼっちだった彼女にとって「見られている」という行為は、萎みきってしまった自尊心を大いに刺激したのも、事実だった。
頭の中はぐちゃぐちゃで、もう彼女にも訳が分からなかった。
ただ、一つだけ言えるのは……母が生きていた頃に戻りたい。それだけだった。