ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
ふらふらと、執務室を後にする。
幽霊のような足取りで辿り着いた先は、先日に火事が起こった、母親の遺品が眠る物置だった。
そこは、もう煤だらけで、残された母の思い出も黒く塗りつぶされてしまって、クロエの心もぽっかりと黒い穴があいてしまったようだった。
母の残骸をじっと見つめる。
瞳は乾いて、一滴も涙が出なかった。
どのくらい時間がたっただろう。クロエは静かに踵を返した。
せめて、最後にユリウスにお礼の手紙を書きたいと思ったのだ。明日まで、まだ時間はある。もう一度、刺繍入りのハンカチも用意しようと思った。
彼は、最後の希望だった。
だから、楽しい思い出を抱えたまま、お別れをするのだ。