ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………だろう?」
「えぇ~……だって、…………ねぇ?」
そのとき、声が聞こえた。男女の声だ。
小鳥のさえずりのように小さな声が妙に気になって、クロエは吸い寄せられるように、ゆらゆらと向かう。
「スコット様ぁ~、もう一回~」
「明日もまた会えるだろう? 我慢してくれ」
「えぇぇ~~~」
それは、コートニーと……スコットだった。
二人は身体を密着をさせて、見つめ合い、愛の言葉を囁き合い、口づけをしていた。幸福感を凝縮した、恋人たちの濃厚な時間だった。
足がすくんだ。一気に血の気が引く。呼吸が静止する。
見たくなかった。
「!…………」
ふと、スコットと目が会った。
ぶるりと恐怖が身体を駆け巡る。彼から向けられた瞳は、これまで見たことがないくらいの、深い冷たさを内包していた。
「どうしたの?」と、コートニーが尋ねる。
「いや……」
スコットは新たな婚約者の顎を持って、言った。
「気のせいだ……。ただの…………ゴースト、だろう?」
二人の舌が絡み合った。
――バチン。
次の瞬間、クロエの中でなにかが弾けた。