ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
パリステラ侯爵が外に愛を求め、父と娘の関係もどんどん希薄になっていって、いつしか最低限の挨拶しかしなくなっていた。家族は既に崩壊して、パリステラ家はずっと冷たい雨が降っているままだった。
それでもロバートは侯爵としての仕事は全うしていたし、愛人以外では悪い評判は聞かなかった。
だからクロエも貴族――いや、人として最低限の常識は持っていると思っていたのだ。
それが、娘可愛さにこんな愚の骨頂のような真似をするなんて……。
(お父様は変わられてしまった。子供の頃の記憶にある優しかったお父様はもういないのね。いいえ、最初から私のことなんて……)
それは、長年クロエの心の底に置いていた、父親への微かな希望が消えた瞬間だった。
またぞろ異母妹と目が合う。彼女はあのときと同じような酷く歪な笑みを浮かべていた。
父も、継母も、突き刺すような視線をクロエに向けて、室内は剣呑な空気に包まれていた。
(ここには、私の味方はいないのね……)
彼女は激しく失望して、晩餐の前にふらふらと無言でダイニングルームをあとにしていた。
いつの間にか、婚約者から貰ったネックレスは異母妹のものになっていた。