ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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空は嵐を運んできそうだった。
土砂降りの雨、冷たい風も強くなって、痩せ細ったクロエの身体に容赦なく降り注いだ。
やっと到着した丘の上から、王都の街並みを眺める。昨日まで鮮やかだったその景色は、今では豪雨で灰色に染まっていた。
明日、自分は貴族籍から外されて娼館へ行く。
もう、パリステラ家の人間ではなくなるし、唯一の心の支えだったユリウスにも二度と会えなくなる。
――ただの、ゴーストだろう?
またぞろ、かつての婚約者の言葉が脳裏をかすめた。
ゴースト、幽霊令嬢……これらの蔑称をコートニーやクリスから呼ばれることは、もうなんとも思わなかった。彼女らに対しては、とうの昔に諦めていたから。
でも……まさか、かつてあんなに大好きだった婚約者から言われるとは思わなかった。
それは非常に大きな刃となって、彼女の胸を深く抉ったのだった。