ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

「っ…………!」

 衝動的に駆け出した。後ろへ高くそびえ立っている塔鐘へ。すっかり古くなった階段を、息を止めるようにして、一気に駆け上がった。

 頂上からの眺めは最悪だった。
 街は深い湖に沈んでしまったように、静かで、雨が弾けて水底の泥が巻き上がっているようだった。
 風が叩き付けるように彼女を襲って、ふらりと飛ばされそうになる。

(ユリウスと一緒に見たときは、最高だったのにな……)

 かつて、彼に連れられて、ここまで来たときがある。
 あの日は彼方まで晴れ渡っていて、空と街と遠くにそびえる山々の対比が美しくて。新鮮な空気がすっと胸の中に入って、代わりに心の中の悲しみが去っていくような、そんな爽やかな景色だった。

 でも、今は………………。

 遠くから雷鳴の音が聞こえた。
 その音に共鳴するように、彼女は嗚咽する。

「うっ……うぅ…………」

 滂沱の涙は止まらなかった。走馬灯のように、思い出とともに溢れ出す。

 なんで、こんなことになったのだろう。
 なんで、お母様は死んでしまったの?
 なんで、お父様はお継母様と異母妹を選んだの?
 なんで、私は魔法を使えないの?
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