ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「クロエっ!!」
そのとき、ユリウスが丘の上を駆け上がって来た。
息せき切らして、ただクロエだけを見つめている。
「おいっ、クロエ! 早まるな!! 待ってくれ!!」
彼は声帯が千切れるくらいに、必死に叫ぶ。身体中の力を振り絞って。
だが、涙に覆われた彼女の瞳には彼は映らず、その叫び声は雷の音に掻き消された。
クロエは割れたペンデュラムを握りしめた。
それは、もう炭のように真っ黒になっていて、微かな輝きさえも失っていた。まるで、元気だった母が死に蝕まれているような、悲痛な姿だった。
涙は止まらない。
心の奥底から、これまで彼女の持つ芯の強さで堰き止めていた感情が、どっと溢れ出した。