ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「――お母様っ!!」
弾かれたような衝撃に、目を見開く。
少しの間ぐらぐらと目の前が揺れて、やがて収まった。
「ここは……?」
ぼんやりと、周囲を眺める。今、ベッドの上にいるようだ。
それにしても、なんだか見覚えのあるような…………、
「クロエお嬢様っ!」
そのとき、侍女のマリアンが、興奮した様子でクロエのもとに駆け寄って来た。
「マリ……アン……?」
卒然と抱きしめられて、目が点になる。思考が固まって、連動して身体も動けなかった。
悲しい別れをした乳母が、目の前にいるなんて……信じられない。
「心配したんですよ! 倒れてからもう一週間もたちましたから」と、侍女は涙を流した。
「えっ……!? 倒れたって、どういうこと……?」
まだ頭の動きが追い付かなかった。
たしか、父親から娼館行きだと告げられて、思い出したくない嫌なものを見て、衝動的に図書館へ向かって、鐘塔に登って、雷に撃たれて――……。
「うぅっ……!」
にわかに頭に電撃が走る。ぎゅっときつく絞られるように、じんじんと痛んだ。
「あぁっ、大丈夫ですか、お嬢様。ずっと寝込んでいらっしゃったんですもの。まだ身体がお辛いですよね」
マリアンは主人から離れようとしたが、クロエはぎゅっと彼女を抱きしめた。
彼女は一瞬目を見張るが、優しく抱きしめ返す。懐かしい侍女の温かさが、クロエのささくれ立った心をじわりと癒やしてくれた。