ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「私、眠っていたの?」しばらくしてクロエはやっと声を出す。「一週間も?」
「えぇ、そうですよ。お嬢様は一週間前に突然倒れまして、しばらくは触れたら火傷しそうなくらいの高熱だったんですから」
マリアンの話によると、クロエは一週間前の晩餐の最中に突然倒れて、それから急激に体温が上がって、今の今までずっと意識不明の状態だったそうだ。
きっと母親が死んでからの諸儀式が終わって、緊張状態から解放されたことで疲れが一気に吹き出たのだろう――と、医師が言っていたそうだ。
(あれは、夢、だったの……?)
まだ秒針のこだまが耳に張り付いている。
継母と異母妹が来てからの日々――あの地獄のような日常は、高熱が生み出した幻覚だったのだろうか。
それにしても、現実味を帯びていた。
あの、ゴミ箱を漁って残飯を口にした感触……そのむごたらしい記憶は、今でも身体の中にこびり付いている。
そして……ユリウスと一緒に食べたスコーン。彼からもらった多くの食べ物。それ以上のたくさんの優しさ。
それらは彼女にとって、決して忘れることのない、かけがえのない大切な思い出だった。
不意に、ユリウスの笑顔が脳裏に浮かぶ。
彼は、幻なんかじゃない。なぜだか、そう確信できた。