ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(ユリウスに会いに行かなきゃ……!)
にわかに胸の中に妙な焦燥感が湧き出て、ベッドから出ようと身体を起こす。
「お、お嬢様! 無理はいけません!」
「でも……」
「まだ目が覚めたばかりで、治りきっていないのですよ。せめて、お医者様に診てもらうまでは、横になっていてください」
「今すぐ会いたい人がいるの!」
「大丈夫です、スコット様には連絡しておきますから。きっと、すぐに飛んで来ますよ」と、マリアンはくすりと笑った。
「…………」
クロエの顔がくしゃりと歪む。その名前に嫌悪感を覚えた。夢現でふわふわと浮かんでいた心が、みるみる黒々と染まった。
スコット・ジェンナー公爵令息。
彼は、最後まで自分の話を聞いてくれなくて、信じてくれなくて…………そしてコートニーを取った。
――ただの、ゴーストだろう?
あの言葉が今も脳裏から離れない。
裏切られた絶望感は、胸を波状の刃のナイフでぐりぐりと抉り取られているかのように、今でも彼女の心の奥にくすぶっていた。