ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


 マリアンが辞去して、部屋の中にはクロエ一人が取り残された。

(懐かしいわね……)

 ぐるりと辺りを見回した。
 彼女が今いる場所は、生まれたときからの彼女自身の部屋だ。異母妹から奪われた部屋。空間はもちろん、持ち物も、全てを奪われた。

 だが、それも今は、まだこの手の中だ。


 そのとき、
 ふと……、胸元がきらりと光った。

 目を落とすと、そこには母から託されたクリスタルのペンデュラムが、きらきらと虹色に輝いていた。
 無意識に、ぎゅっと、掴む。
 刹那、洪水のような激しい魔力の波が彼女を襲った。身体中にびりびりと電撃が走る。

(やっぱり、夢なんかじゃないのね……!)

 ペンデュラムから流れる魔力を感じる。
 それは、彼女の体内を駆け巡って、時間軸が過去に戻ったことを示してくれていた。
 今の彼女には、時間の流れを手に取るように感じ取れたのだ。

「っふふ……ふふふ!」

 思わず、笑いがこぼれた。
 自分は、過去に逆行したのだ。それも、継母と異母妹が来る前の。

(お母様……)

 自然と母の顔が浮かんできた。大好きだった母。しかし、今は絡まった毛糸みたいに複雑な心境だった。
 お母様が大好き。でも、嘘つきのお母様なんて大嫌い。

 それでも……貶められた母の名誉を回復させたい。
 侮辱なんて、決してさせない。


 だから――、
 今度はゴーストなんて絶対に呼ばせない。


 卒然と、その衝動が彼女の清らかだった心を突き動かした。

 屋敷の者にも、他の誰からも……自分を見てもらいたい。存在を認めて欲しい。
 私はもう、幽霊令嬢なんかじゃ、ない。


 クロエの胸に、黒い炎が宿る。

「今度は……派手に生きるわ…………っ!」

 そう、強く誓った。


 ――見られたい。

 それは、彼女の傷付いた心を、深く深く支配していた。 



 それから、

 彼らには、

 ………………、

 ………………、

 ………………、


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