ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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ローレンス・ユリウス・キンバリーが目を開けると、そこは見慣れた馬車の中だった。
静かな空間に、心地よい馬蹄の音だけが鳴り響いている。
「ここは……」
「お目覚めですか、殿下」目の前には側近のリチャード。「随分ぐっすり眠っていらっしゃいましたね」
「…………」
ユリウスは右手で頭を抱えながら、眉間に皺を寄せている。
長い夢だった。そして、酷く現実味のある夢。
夢の中で出会ったクロエという少女は、美しくて優しくて勤勉家で……でも、とても不幸で…………。
「どうかされましたか?」リチャードは心配そうに主人を見た。「まさか身体の具合が?」
「いや……」
「もうすぐ到着しますよ。着いたらすぐに帝国領事館の大使と会食です」
彼の発言にユリウスは目を剥いた。
(そういうことか……)
ふと、ズボンのポケットに違和感を覚えた。
おもむろに中身を取り出すと、それは白いシルクのハンカチで。
「ユリウス」と、控えめに刺繍が施されていた。