ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「新しいドレスを作るわ。明日、デザイナーを呼んでちょうだい」
医師の診断が終わったばかりで、まだ寝衣でベッドに横になっていたクロエが、強く言い放った。
マリアンは目を丸くして、
「お嬢様、さすがに病み上がり過ぎます。せめて一週間くらいは様子を見てはいかがですか?」
「私はもう大丈夫よ。気持ちを切り替えるために、衣装を一新したいの。行動は大事だわ」
「もうっ、ご体調が優れないようであれば、すぐに中止しますからね」
マリアンは早速デザイナーの手配をする。パリステラ侯爵家に相応しい、王都で大人気で半年先まで予約待ちの老舗ブティックだ。
(きっと、奥様が亡くなって一区切り付いたので、辛い気持ちを払拭しようと考えておられるのでしょう)
そう思うと、彼女は自然と口角が上がった。
侯爵夫人が鬼籍に入ってからというもの、侯爵令嬢はずっと沈み込んだままで、物凄く心配していたのだ。
しかも、とどめの高熱だ。
お嬢様はこのままずっと塞ぎ込んだままでいるのだろうか……と、出口のない迷路の中にいるような心境に陥った彼女にとって、クロエの前向きな変化は大歓迎だった。
女性は、身に纏う衣装や装飾品で、心の持ちようさえ変貌させる。
明日はご主人様の前向きな気持ちを後押しするように、とびっきり似合うドレスを選ぼうと思った。控えめだけど清楚で、上品な可愛らしいものを。