ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そのとき、ふと、違和感を覚えた。
たしかに今は、元の時間軸の自分のはずなのだが、なんだか様子がおかしい気がする。
なぜだろうかと、彼女は鏡の中の自身をためつすがめつ眺めた。
しばらくして、
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
主の様子がおかしいことに気付いたマリアンが声をかける。
しかし、クロエは答えない。
彼女は微動だにせず、まじまじと鏡を見つめていた。
「クロエお嬢様?」
「…………」
奇妙な静寂が停滞したあと、クロエがぽつりと呟いた。
「瞳が…………」
「えっ!?」
マリアンが慌てて主人の目を覗き込んだ。
彼女のクロムトルマリン色の深い瞳には――、
「左目が光ってる…………」
それは、クロエの母と同じく、きらきらと流れ星のような煌めきが宿っていたのだ。
綺羅星のようなそれは、生命力をたたえるように、強く、光り輝いていた。
「お母様と同じだわ……」ぽつりとクロエが呟く。「彼とも……」