ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「おや?」
庭園のガゼボで話に花を咲かせている最中、スコットがふと顔を上げて遠くのほうへ目を向けた。
クロエも彼に倣うと、そこにはコートニーが柱の陰でもじもじしながらこちらを覗き込んでいる。
「彼女は……もしかして?」
「……そうよ。あの子が私の新しい異母妹。――コートニー、良ければこちらにいらっしゃい」
クロエは婚約者との逢瀬を邪魔されて内心がっかりしながらも、姉としての手前そんなことおくびにも出さずにコートニーを呼ぶ。異母妹はてとてとと、貴族令嬢らしからぬ小動物のような可愛らしい足取りで近寄って来た。
「スコット、こちらが新しい家族のコートニーよ。コートニー、こちらは私の婚約者のスコット・ジェンナー公爵令息様」
「初めまして、コートニー嬢。僕は君の義兄になるスコットだ。これからよろしくね」
「はっ、初めまして、こんにちはっ! あたしはコートニーですっ!」と、彼女はまたぞろ貴族令嬢らしくない様子でぺこりと頭を下げた。
スコットはその姿に一瞬だけ目を見張ったが、
「ははっ、元気な可愛らしい異母妹だね」と、にっこりと微笑んだ。
コートニーは恥ずかしいのか、頬を赤らめて異母姉の後ろにさっと隠れる。その愛くるしい姿は、普段はクロエのような礼儀正しい令嬢を相手にしているスコットにとって、新鮮でなんだか好ましく思えた。
(心配していたけど、彼女はクロエに懐いているようだし、上手く行ってるのかな?)
異母姉の後ろに恥じらいながら隠れる様子は、仲の良い姉妹に見えた。
クロエはまだ母親の死の傷が癒えないだけで、立ち直ったら彼女たちと家族として向き合えるのかもしれない。今は辛いかもしれないが、いずれは元の彼女の明るい姿を見られるだろう……と、彼は密かに胸を撫で下ろした。