ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
(は…………?)
ぞくり、と鳥肌が立つ。怒りの感情は急激に冷めていって、氷のように固くなった。
「マリアン、悪いけど部屋の片付けの手配をお願い。元通りになるまで他の部屋を使うから、急がなくてもいいわ」と、彼女は父親との会話をさり気なく打ち切る。
「かしこまりました、お嬢様、では、早速代わりの部屋をご用意します」
「よろしくね」
「クロエ!」
「まだ、なにか?」と、クロエは眉をひそめる。父親のことが心底鬱陶しかった。
「その……」ロバートは少し言い淀んでから「そ、そうだ! なにか欲しいものはあるか? 魔法が使えるようになった褒美に、お父様がお前の好きなものをなんでも買ってあげるぞ!」
彼は、これまであまりにクロエのことを顧みなかったので、どう接すれば良いか分からなかった。
だから、コートニーと同じように物を贈ったらクロエも喜ぶだろうと、咄嗟に声をかけたのだった。
(こんなことなら、もっとクロエのことも構ってあげれば良かったか……)
彼は後悔していた。娘のことを魔法の使えない無能だと決め付けて、これまで放置をしていたことをだ。
まさか期待していなかった子が、こんなに強い力に目覚めるなんて。
このようなことになるのなら、幼い頃からもっと目にかけてやれば良かった。