ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「……必要なものは、侯爵家の予算からいただいています」
しかし、娘は父の言葉を冷ややかに突き放す。
なんでも買ってやると言うと女は喜ぶと信じていた彼は驚愕した。実際に、クリスとコートニーからは、毎回とても嬉しそうに礼を言われていたのだ。
「ほ、宝石も、ドレスも、お前の好きなものを全部買ってやるんだぞ? なんなら別荘でもいい。湖付きのな!」
「お父様……」
クロエは呆れたようにため息をつく。苛立ちさえ通り越して、言葉を失った。
父は、所詮この程度の男なのだ。女なら物質を与えれば喜ぶと、浅はかな考えを持っている。なんと愚かな人間なのだろうか。
「あのですね、私は……」
クロエは口を噤む。
そのとき、ふと、ある考えに思い当たったのだ。
「クロエ?」と、ロバートは首を傾げる。
欲しいものが思いついたのだろうか。これまでの罪滅ぼしも兼ねて、娘にはとびっきり上等なものを買ってやろう。なに、これからも褒美を与え続ければ、そのうち機嫌も良くなるだろう……。
「お父様」クロエは改めて父を見る。「一つだけお願いをしても宜しいでしょうか?」
「あぁ、なんでも言いなさい。愛する娘の願いなら、お父様がなんでも叶えてやろう」
「それでは、今後の屋敷の運営は、私に一任していただけませんか?」
「はっ……?」
ロバートは目を見張った。
どんな高級なドレスか、希少性の高い宝石の名称が出てくるかと構えていたら、まさかの屋敷の管理だとは。
「ど、どういうことだ?」と、彼は上擦った声で尋ねる。娘の意図が分からなかった。