ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
そんな彼女の心情を彼は知るよしもなく、慈しむような視線を婚約者に向ける。
高熱で意識不明だと知らされたときは、動揺で頭がどうかなりそうだった。こうやってまた、元気な婚約者の顔が見られて本当に良かった。
「君が高熱で倒れて意識不明だと聞いたときは、本当に心臓が止まりそうだったよ」
「そう。心配かけてごめんなさい」
「ずっと寝込んでいたけど、もう動いても大丈夫なのかい?」と、スコットは心配そうにクロエの顔を覗き込んだ。
「医師は問題ないと言っていたわ。平気よ」クロエは無理矢理に笑顔を作る。「マリアンがあなたが毎日お花を贈ってくれたって言っていたわ。ありがとう」
怒りに震える右手を、跡が付くくらいに左手でぐっと強く握りしめる。
どの面下げてやって来たのかと、罵倒して張り倒したい気分だった。
しかし、今の彼はまだコートニーに出会ってさえもいない。
これから起こり得る未来のことを糾弾しても仕方ないのだ。
感情を優先して、婚約者から怪しまれるようなことは避けたい。
今後、こちらが有利に動けるためにも、しばらくは彼とは逆行前と同様に良好な関係を築いていたほうが都合が良い。
だから、今は……ひたすら我慢だ。