ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「いっつっ……!」
そのとき、マリアンのくぐもった叫び声が聞こえた。
見ると、彼女の指から血が流れている。どうやらカップの破片で切ったようだ。
「マリアン、大丈夫!?」と、クロエが駆け寄る。
「驚かせてすみません、お嬢様。慌てて掃除をしていたので、つい不注意で。でも、これくらい平気ですよ」
「ごめんなさい、私のせいだわ!」
「そんなことありませんよ」
「私に手当をさせて!」と、クロエは咄嗟に侍女の怪我をした手を持った。
そのときだった。
「っ……!?」
ぼわり、と霧のような白い光が繋がった二人の手から漏れた。
一拍して光が消え去ると、
「お……お嬢様、き、傷が……!?」
なんと、マリアンのぱっくりと割れた指先の傷が、何事も起こらなかったかのように、綺麗に元通りの状態になっていたのだ。
「………………」
「………………」
緊張感に満たされた静寂が辺りを包み込んだ。
皆、目を見張って動けなかった。
「聖女…………」
しばらくして、背後に立つスコットが、ぽつりと呟いた。