ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

38 聖なる力ではないのです!

 パリステラ侯爵家の長女が、聖女の力に目覚めたという噂は、瞬く間に社交界に広まった。

 貴族は強力な魔法を使えるが、人の傷を癒すという聖なる力を持つ存在は稀だった。
 しかも、高位貴族なのに魔力ゼロだとずっと陰で笑われてきた令嬢だ。その衝撃は凄まじかった。

 
 クロエの新たな仕事に、聖女としての役目が加わった。

 彼女は屋敷の執務の合間に、精力的に治療院や孤児院へ赴いて、貧しい平民たちに無償で怪我の治療を施していった。
 この人の上に立つ者としての、模範的行為は評判を呼んで、パリステラ家――そして彼女自身の名声はどんどん高まっていったのだった。

 人の役に立ちたい。困っている人を助けたい。
 そんな想いを抱いて始めた治療行為だが、他にも彼女の心を満たす役割があった。

 見られている。必要とされている。

 逆行前には誰からも相手にされないゴーストだった彼女にとって、人々から聖女だとちやほやと崇められるのは……正直、快感だった。

 こんな邪な気持ちで力を使うだなんて、自分はなんて心の汚い人間なのだろうと、自己嫌悪の波に襲われることもあった。
 しかし、クロエ・パリステラという存在を、多くの人々から求められる喜びには敵わなかったのだ。

 いつの間にか、王都の貴族はもとより、平民の間でも彼女の名前を知らぬ者はいないほどに、有名になっていった。

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