ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
自分は、時間を操れる……!
これで、ずっと心に引っかかっていたものが、やっと剥がれ落ちた。
称賛されている癒しの力は、対象の傷をもとの傷付いていない状態に「時間を巻き戻していた」だけだったのだ。
それを聖女の力だと勘違いして、持て囃されているだけ。
「ふっ、ふふっ……」
思わず笑いが込み上げた。
自分も周囲も、偽りの力に騙されて、皆して舞い上がって。なんて滑稽なのだろう。
同時に、罪悪感も芽生えた。自分に感謝の言葉を投げかけてくれた人々、きらきらと尊敬の眼差しを向けてくれた子供たち、貴族たちの羨望。
どれも、これも……私に騙されていたのね。
彼女は、弧を描いて不気味に笑う。
この力は使える。
時間を操る魔法を上手く利用すれば、コートニーに魔法で打ち勝つのはもちろん、狡猾な継母の奸計にも対抗できるかもしれない。逆行前の記憶と併用すれば、十分に勝算はある。
そのためにも、この魔法は周囲に秘匿にしておいたほうが良いだろう。とっておきの手札は、最後まで隠しておいたほうが絶対にいい。
だから、良心は痛むが……このまま「聖女のクロエ」として功績を上げて、今は少しでも異母妹との差を付けておこうと、彼女は決意した。
クロエは踵を返す。胸が高鳴った。
早速、「時間」の魔法について詳しく調査をするのだ。なにか他にも良い使い道があるのかもしれない。
「…………」
彼女は池の前で、ふと立ち止まる。
そして、父の壊れたペンをぼしゃりと池の中に静かに投げ捨てた。
ペンは深く、沈んで行く……。