ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
スコットは、婚約者が以前に比べて自分と面会してくれないことに、深い悲しみを覚えた。
しかし、彼女には屋敷の執務や聖女の活動がある。きっと彼女は、母親を失った悲しみを多事多端の中に身を置くことで、忘れ去ろうとしているのだろう。
ならば、自分は側で静かに見守るだけだ。
もし彼女が孤独に嘆くような事態に陥ったのならば、そのときは隣からそっと手を差し伸べよう……そう考えていた。
そこで彼は、会えない代わりに頻繁に手紙を書いた。
直接触れ合う機会が減っても、彼女のことを想っていると伝えたかったのだ。
これはクロエとしても助かった。
手紙なら、冷静に俯瞰できるので激情で突飛な対応をすることもない。
なにより文章の上だけの付き合いなので、平然と嘘を並べられるのが良かった。
直接彼の顔を見ると、怒りが湧いて、そんな余裕もないだろうから。
彼女は歯の浮くような美辞麗句を並べて、これまでの良好な関係を維持していますよと、彼を安心させたのだった。
マリアンは最初は「なぜ婚約者との面会頻度を減らすのか」と苦言を呈していたが、毎日忙しく働いているクロエが、ちょっとした合間を見てスコットに一生懸命に愛情のこもった手紙を書いている様子を見ると、もうなにも言わなくなったのだった。