ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


「お父様……」

 クロエは大仰にため息をつく。そして、バンと音を立てて黒いレースの扇を広げ、口元を隠した。

「いくら平民出の元・愛妾だからって、これはあんまりですわ。酷すぎます」

 にわかに母娘の顔色が変わる。怒気を宿して、みるみる紅く染まった。

「どっ……どういうことだ、クロエ!?」と、ロバートは気色ばむ。

「どうもこうも……」クロエは眉根を寄せて「これが、パリステラ侯爵が本妻より愛する女性に対しての正当な扱いかと申しているのです!」

「はっ……?」

 侯爵たちは今度は目を丸くした。
 彼女は構わず長広舌をふるう。

「まずは、お継母様のこちらのドレス。なんて安っぽいのでしょう。これでは平民用の貸衣装ですわ。薄っぺらい生地だし、流行遅れの野暮ったいデザイン。もっと良いデザイナーを付けて差し上げてくださいませ。異母妹も同じです。こんな切れ端みたいな粗末なリボンをべたべたと貼り付けたら、他の家の令嬢に継ぎ接ぎだらけの乞食のようだと笑われてしまいます」
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