ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「…………」
「…………」
侯爵令嬢の演説に、観客は絶句して、氷像のように固まっていた。
クロエは畳みかけるように演じ続ける。
「そして、お継母様の香水。なんですの、このお手洗いのような強烈な匂いは。こんなの、殿方たちから公衆洗面所だと間違われてしまいますわ。侯爵夫人が、そのようなことはあってはなりません。お化粧も、どこの舞台芸術でしょうか。これでは男を貪り食う女郎蜘蛛ですわ。今のままでは、高価な宝石も、ただのガラス玉に見えてしまいます。――もっと、継母様たちに予算を掛けてくださいまし。これではパリステラ家の沽券に関わります」
しんと水を打ったように静まり返った。
父は真っ青になって、母娘は真っ赤な顔して。
気まずい雰囲気の中、しばらくしてロバートが口火を切る。
「そ……それは済まなかった。十分な予算は充てていると思っていたのだが……」と、彼は口ごもった。
二人にはたしかにたっぷりと贅沢させていたつもりだった。それは前妻やクロエ以上に。
しかし、それだけでは足りなかったのだろうか。
言われてみれば、二人ともクロエのドレスに比べて貧相で品がなく見える。別邸にいるときは気にならなかったが、生地の差やドレスの見せ方、そして佇まいなど……一目瞭然だ。
クロエは、さすが生まれながらの侯爵令嬢といったところだろうか。
別邸の管理はクリスに任せていたが、やはり平民出身の彼女には荷が重すぎたか……。
だが、身なりに金をかけていないとなると、予算配分はどうなっているのだ……。