ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
「その通りだ」
父は首肯する。彼自身も、子供の頃は今クロエが使用しているこの部屋で育った。
彼は他の兄弟より魔法に長けて、侯爵家の紛うかたなき立派な跡取り息子だったのだ。
「私はすぐにでもコートニーに譲っても良いのですが、仮に異母妹が私より魔力が低かったら、それはパリステラ家の伝統を崩すことになります」
ロバートははっと息を呑む。たしかに娘の言う通りだ。
代々の侯爵家の長子あるいは跡取りの場所だったここを、自身の代で掟を捻じ曲げることになる。
そのことが侯爵家の長い伝統の破壊への呼び水になるかもしれない。
それは、なによりも魔力に価値を置く彼にとって、家門を否定するような許し難い行為だった。
「……っ」
ロバートは黙り込む。コートニーもクリスも、悔しそうに顔を歪ませていた。
コートニーは父から体内に膨大な魔力を宿していると言われていた。だが怠惰な彼女は、放っておいてもいつか力に目覚めるだろうと、まだ魔法の勉強を始めていなかったのだ。