ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


◆◆◆




 不穏な空気は続いていた。

 静かなダイニングルームには、がちゃがちゃとコートニーの立てる激しい音と、時折クリスの立てるかしゃりという食器音だけが響いていた。

 クロエは、そんな行儀の悪い二人のことを小馬鹿にするように見やって、継母も異母妹もぎろりと睨み返していた。

 冷え切った場の雰囲気に居たたまれなくなったロバートが、新しい妻や娘に話題を振っても、二人とも不機嫌に一言答えるだけだった。別邸にいた頃は、二人のこんな姿を見たことのなかった彼は、戸惑いを隠せなかった。


「そ、そうだ……ク、クロエ!」彼は思わず前妻の娘に話題を振る。「今日もまたお前に縁談が来ていたぞ。全く、ジェンナー公爵令息が既にいるのに、困ったものだよ」

 聖女と名高いクロエに対して、今でもしょっちゅう縁談が舞い込んで来ていた。
 それは、彼女に婚約者がいるにも関わらず、お構いなしだった。それほどに、聖女の価値は高いのだ。
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