ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
クリスはクロエたちに許可も取らずにずけずけと椅子に座った。それは継子が腰かけていた場所で、彼女が弁解しようと立ち上がったばかりだった。
クロエは二人の勢いに圧倒されて動けず、その場に立ち尽くしていた。
母娘は彼女の存在なんてないように、スコットに話し掛ける。
「あのね、スコット様があたしのネックレスが素敵だって」
「あらぁ、良かったじゃない! このネックレスは、あたくしたちが屋敷にやって来た記念にクロエがくれたのよ」
「そうなの! お異母姉様には子供っぽすぎて似合わないからって」
「ち……ちがっ――」
我に返ったクロエが抗議の声を上げようするが、母娘の怒涛の勢いに掻き消された。
「そうねぇ……。たしかに地味なクロエより、可憐なコートニーのほうが似合うわね。要らないからずっと箱に仕舞っていたみたいだし、丁度良かったわね」
スコットの顔が微かに強張った。
「待って! スコット、これには理由が――」
「あのねっ、スコット様ぁ!」コートニーはクロエの婚約者の腕に絡み付く。「お異母姉様はね、あたしにドレスとか宝石とかいっぱいくださったのよ! 可愛いデザインのものは自分には似合わないし好みじゃないからあげる、って」
「へぇ……」と、スコットは冷淡な声音で答えた。
「違うわっ! 嘘をつかないで! このネックレスはあなたが勝手に持って行ったんじゃない!」
初めての冷ややかな婚約者の姿に心を掻き乱されて、ついにクロエが叫んだ。
するとクリスとコートニーは途端に悲しそうに視線を落として、
「あの……ごめんなさい。もしかして、要らないってコートニーにあげた装飾類の中に婚約者からのプレゼントもあったんじゃないの? 知らなかったとは言え、無神経に喋ってしまってごめんなさいね」
「お異母姉様……ごめんなさい…………。お異母姉様の言う通りに、あたしはてっきり要らないものかと……」
平然と嘘を並べる二人に、クロエの怒りはついに怒髪天を衝いた。