ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
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「なぜ、屋敷の管理をあたくしに任せてもらえないのよっ!?」
パリステラ侯爵の悩みの種はもう一つあった。新しい妻の侯爵夫人としての資質である。
ロバートは、家令からクリスの別邸での女主人としての仕事ぶりの報告を受けていた。
家令曰く、クロエが忙しい合間を縫って、別邸での過去の管理帳簿などをまとめてくれたらしい。
それによると、かなり杜撰な管理で、とても歴史あるパリステラ侯爵家の女主人として、屋敷の差配を任せられる状態ではなかった。
「お継母様、お屋敷の管理は侯爵令嬢である私の仕事です。申し上げにくいのですが……別邸の管理も満足にできなかった方には荷が重すぎますわ。もっと学んでからでなければ」
「旦那様っ! あなたからも言ってください! 屋敷はあたくしに任せるって!!」
クリスは目を剥きながら夫に詰め寄る。これまで自分たち母娘に甘かった彼ならば、この生意気な娘を一喝してくれるだろう。
「クロエの言う通りだよ、クリス」
だが、頼りになるはずの夫は、首を縦に振らなかった。困ったようにため息をついている。
「残念だが、今の君の能力では侯爵家の運営は無理だ。なに、まだ来たばかりで時間はたっぷりとある。家令やクロエからゆっくりと学んでくれ」
「旦那様っ!!」
「ですって、お継母様。しばらくは侯爵夫人としてのマナーや教養のお勉強ですわね」とクロエ。
クリスはきっと継子を睨み付けてから、どすどすと音を立てながら品のない所作で自室に戻った。