ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

「このままでは、異母妹が可哀想で……」

 クロエは異母妹に近付いて、そっと頭を撫でた。そして目尻に少し涙を浮かべて優しく語りかける。

「コートニー、そして、お継母様も……父のせいでこれまで辛い思いをさせて、ごめんなさい」

 長女の信じられないような健気な言葉に、母娘は目を白黒させる。

「クロエ――」

「だって、お父様、そうでしょう? お父様が無責任なことをするので、本来なら幸せになるべきお二人が惨めな思いを抱きながら生きてきたのです。私とお母様の影に隠れて」

「そ、それは……」

 ロバートは押し黙る。娘の正論に、なにも言い返せなかった。
 たしかに今の状態は、己が冷めた家庭から逃げて、二つ目の家庭を築いたことが元凶だ。

 クリスとコートニーには本邸よりは数段劣りはするが、下位貴族以上の屋敷を与えて、本妻たちに負けないくらいに金もかけたつもりだ。
 しかし、姉のものを強請るほど、わびしい思いをしていたのだろうか。
 愛情不足? ……いや、二つの家庭の両方を中途半端にした自分のせいなのだ。

「だからね、コートニー」クロエはつつと涙を流す。「私だけが良い思いをしてきた、せめてものお詫びに、それはあげるわ。……ううん、それだけじゃない。私が持っているもの、全部あげる。――さ、好きなものを持って行きなさい。お継母様も、どうぞ?」
< 235 / 447 >

この作品をシェア

pagetop